「1R1分34秒」は開始早々ってことだよね?
ちゃんとしているんだけれど独特で、呼吸が合うまではなかなか読み進まない気がしたのだけれど、なんのことはない、呼吸のテンポを掴んでしまえば、ボクシングがまったくわからなくっても自ずと心が寄り添って、あっという間に読み終えてしまった。
のっそり鈍い動きの感情も、産毛が逆立ち、ピリピリと敏感になっているときの感じも、抑制が効かず自分ではどうすることもできない気持ちも、恥ずかしいくらいに当てはまると思う。恥ずかしいくらい、身に覚えがある。
読み終わったとき、私の頭の中で主人公の顔は、知人のボディビルダーさんの顔になっていた。大会前の身体を絞って絞っているときの痩せた頬を思った。
そのことを知人に言うと、「ボクシングとはちがうけどね」と笑顔が返って来た。
そうだよね、ちがうとは思う。
けれど、現実に触れることのできる場所にいる人とおなじくらいに、ボクシングも減量もまったくわからないけれど、二人が重なるくらいに、文字だけで頭の中に浮かび上がった人はリアルに私の中に現れた。
おもしろかった。
ネタバレ注意が難しいからこれ以上は書かないけれど。。。
私評:鈍さと鋭さ、永遠のような時と刹那、対になるどちらもが自分のことのように思える一冊。